民意と政権運営(NHK「視点・論点」から)

「安倍一強」と言われるように、国会での自民党一強だけではなく、自民党内で安倍首相に異論を唱える者は少なく、霞が関では強力な人事権を握り官僚機構を統治しています。政治のリーダーシップは必要ですが、政権が暴走気味になったときにそれを抑止する機能が弱いような気がします。

党内の意見集約や国民の合意形成を疎かにして、力走というよりは暴走に見える官邸に対し、それを止められない自民党と野党、そして官僚。それに警鐘を鳴らしたのが都議会議員選挙の結果だったのではないでしょうか。

このことについて、7月17日放送の「視点・論点」(NHK)では、「民意と政権運営」というテーマで学習院大学の野中尚人教授が論じていました。以下に要約します。


戦後の自民党の政権維持は、一言で言えば、「権力を共有する」仕組みだった。
さまざまな場面でさまざまな相手との間で、権力を共有し、交渉と合意、あるいは妥協によって運営するというものであった。

1.自民党・与党のしくみ
派閥システム
派閥間の競争により党内の一部の勢力が暴走するのを抑えていた。安全弁のような役割を果たしていた。
年功制をベースにした平等型の昇進システム
当選回数さえ積み上げれば、様々なポストに就くチャンスが与えられていた。党内の部会長や国会での委員長、各省の政務次官などで能力を磨き、政策に関与する機会を与えられていた。
与党内のコンセンサス重視による積み上げ型政策決定
族議員たちが、政調会の部会や調査会などで大きな影響力をふるう体制だったが、積み上げ型のプロセスの中で、民主的な合意を重視していた。逆に、首相のリーダーシップを阻害するほどの分権体制で、政府・与党二元体制として批判されてきた。

2.国会のしくみ
国対での協議において、何をいつ審議するのかについて、野党はかなり大きな発言権を持っていた。

これらの仕組みが、現在ではほぼ全面的に否定されかねない形になっている。
首相や官邸がリーダーシップを発揮することは重要だが、意見集約や調整が行われていない面もありそう。
重要な法案について、国民の理解が得られていないことはその表れ。
3.官僚機構について

2014年の春に国家公務員法が大改正された。
各省の審議官から事務次官までを1つのグループにまとめて異動の人事をやり易くした。その上で、内閣人事局を設置し、実質的な人事権をほぼ官邸に集中させる仕組みが出来上がった。首相と内閣官房長官の人事権は飛躍的に強化された。すべての幹部官僚たちは、官邸の意向に最大限の注意を払うようになった。原則問題はないが、審議官クラスまでのライン人事への直接介入という点でも、官邸という中枢がすべてをコントロールする点で、かなり例外的な体制となった。

イギリスでは、ごく少数の大臣の特別顧問を別として、官僚人事への政治的介入はほぼ出来ない。官僚自身がコントロールしている。
フランスとドイツでは、政治的な任用が一定の範囲では可能ですが、ほぼ大臣の周辺と局長クラスまでに限定されている。

各省の官僚が自分たちでバラバラに人事を仕切るという一方の極端から、広範囲で強力な政治的統制力をほぼ完全に官邸に集めるという、反対の極端に飛び移ったような恰好となった。最近、官邸と官僚との関係がやや「暴走」ぎみになっていることはその意味で理由のないことではない。政治がリーダーシップを発揮するために、一定の人事権をもつことは必要だが、同時に、国会での監視や、官僚自身が一定の関与をする仕組みやルールを備えていなければ、結局は暴走しうまく行かなくなる恐れが大いにある。各国でこうした仕組みが工夫されている。大統領が行政府の中では圧倒的な権限を与えられているアメリカでさえ、トップの官僚人事には上院の承認が必要となっている。

官邸主導・政治主導を原則としつつ、一定のルールや仕組みで常にそれを監視し、暴走を抑止することが大切。

短期的な衝動に駆られた暴発を防ぎ、民意のありかを見定めながら、長い目で見た政治の安定と政策の推進を可能にする秘訣ではないか。

根本的には、政権交代がそれを保障するが、日常的な仕組みとしても、人事ルールの工夫や国会での討論や調査機能の活性化など、こういったことが大きな課題となってくる。

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